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Movie Review 2000・11月12日(SUN.)

スペース カウボーイ

 近頃は『許されざる者』『目撃』など、どちらかといえば作家主義的な、小規模な作品が多かったクリント・イーストウッドの新作は、NASA 全面協力の SFX 一大エンターテンメント大作で、こりゃ意外? しかし過去には『ファイアー・フォックス』なんてのも撮ってるから、別段驚くにはあたらない。

 イーストウッドは『ライト・スタッフ』のチャック・イェーガーみたく空軍のテスト・パイロットにて、「チーム・ダイダロス」として全米最初の宇宙飛行士の訓練を受けているが、上司に反発しがちで宇宙への夢はかなわず、そして早や 40 年。引退してすっかりジイ様になったイーストウッドだが、老いてますます盛ん、嫁さんといちゃいちゃしているところに NASA から呼び出しがかかる。

 なんでも旧ソビエトの通信衛星が制御不可能となって地球に落下するらしい。燃え尽きるままにさせときゃいい、ってのが大方の見解であるが、なぜかスペースシャトルで修理をすることになって、その制御装置の設計者であるイーストウッドにお呼びがかかる。

 イーストウッドは言う。「これはオレにしか直せない。オレが昔のチーム・ダイダロスと直しに行く!」…なんちゅう聞き分けのないジイさん! かくてトミー・リー・ジョーンズ、ドナルド・サザーランド、ジェームズ・ガーナーが集められ、老人一行は宇宙行きの訓練を開始する…。

 前半は、イーストウッドが昔の仲間を集める、ってのが『七人の侍』風であり、ジイ様が若者に負けじと訓練する様がユーモラスに描かれ、後半は宇宙でのミッションをテンポよくサスペンスフルに描き、この緩急の具合が近頃の MTV 馬鹿監督には真似のできないところであって、「映画」というのはこういうものであったなあ、と感慨深い。

 単純明快なエンターテインメントであるが、イーストウッドらしい倫理がつらぬかれている。と、いうか、エンターテインメントとは倫理的でなければならないのであって、そこんところヨロシク。若い宇宙飛行士ときたらエリートコースのひ弱な坊や、健康馬鹿のマニュアル野郎だ。老人パワー・老人倫理・老人モラルを思い知れ。

 ここで「墜落寸前の旧ソ連人工衛星」とは、映画そのものの比喩であることに思い至る。大学の映画学科でお勉強し、MTV でショボイ演出経験を積んだ若い監督どものおかげで「映画」、特に「アメリカ映画」はいまや絶滅寸前だ。この、息も絶え絶えの「映画」を復活させられるのは、オレ達ジイ様軍団だけなのだ。お前ら年寄りを馬鹿にすんな。D ・サザーランドを筆頭に下半身の方でもまだまだ負けてはおりませぬぞ。老いてますます盛ん。

 イーストウッドの演出は「お約束」の連続で、どうしたもんでしょ? と思わないでもないが、傑作だけが持ち得る「ウネリ」「グルーヴ感」が確かにあって、「来た来た来た!」と興奮させられてしまうのも確かである。NASA での訓練シーンがカッコいいし、ILM による特撮も今回はなかなか気持ちいい。が、ひとつ気になる点があって、それは、宇宙空間でバシバシ音がしていることだ。宇宙には空気がないから音がしないという科学的事実を歪めているわけで、そりゃ音がないと迫力が出ないやろ大事なのはエモーションなのさ、というのはわからんでもないが、ひょっとしたら「えっ、宇宙って音がしないのかい、トミー?」とか言いそうで恐い。

 ともかく、これが「映画」だ! 年寄り 4 人のアンサンブルも最高だ。これをススめずして何をオススメできようか?

BABA Original: 2000-Nov-12;

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