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Movie Review 2000・11月9日(THU.)

アンジェラの灰

 アラン・パーカーの新作は、ニューヨーク在住・元教師フランク・マコートがつづったアイルランドでの極貧少年時代の回想記が原作。なんでもピュリッツァー賞を受賞、世界中でベストセラーとなり日本でも翻訳され、日本人ファンによる WEB サイトができるほどの人気。

 で、これが素晴らしい映画であった。何が素晴らしいって、パンフレットが最高! 最近では『サイダーハウス・ルール』のパンフにオドロキの超ロング・プロダクション・ノートが掲載されていて、普段、見かけ倒しのしょむないパンフを苦々しく思っている私を狂喜させたばかりであるが、『アンジェラの灰』のパンフも、「アラン・パーカー監督自身によるプロダクション・ノート」11 ページ一挙掲載を筆頭に読み応え十分。世の中まだまだ捨てたモノではない。

 それはともかく「アイルランドものにハズレなし」という名言があって、これを言ったのは誰だったかなぁ? あ、ワシや。古くはデビッド・リーン『ライアンの娘』、新しいところになると『ヒア・マイ・ソング』、『父に祈りを』、『クライング・ゲーム』などなど。アイルランドを舞台・ネタにした映画はどれもこれも、うおおおとコブシに力が入る傑作が多い。

 何故か? 『コミットメンツ』にこんなセリフがありました。「アイルランド人はヨーロッパの黒人だ!」…だから白人でもソウル・ミュージックを演奏できるのさ、ってことだけど、南北分断された不幸な境遇の国にあってはふにゃけた映画を作っている場合ではない、って気概があるように思う。しかも悲惨なるがゆえに、もう笑うしかないって感じの乾いた笑いがあって、この辺が良いのだ。この映画でも失業保険さえ飲み代にしちゃうダメ親父に対し、「そんなにギネス財閥を儲けさせてどうする?」…なんてセリフがサラッと出てきて、うーむ、ゴリッと、おかしいや、と思うわけです。

 お話はというと、少年フランク・マコートの、アイルランドでの 1935 年から約 14 年間、5 歳から 19 歳までの話。三人の子役が演じる。オヤジは失業者を演じさせたら世界一、おなじみロバート・カーライル、おっ母さんは、悲惨な境遇を演じさせたらこれまた世界一、『奇跡の海』のエミリー・ワトソン。こんな両親じゃあホントに子どもたちが可哀想なんだけど、悲惨さの中にあっても懸命に生きていく少年。

 結局フランクは貧乏過ぎて学校にも通えなくなるんだけど、教師の一人が生徒たちにアジるセリフ――「人間の想像力は無限なり。諸君の頭は宮殿なのだ!」。くくっ。泣ける。貧乏人に希望を与えるセリフじゃござんせんか。ちょっとケン・ローチの映画みたい。と、言っても、主人公が後にベストセラー作家になるのを知っているからノー・フューチャー感は薄いんですけど。しかれど人の不幸は最高のエンターテインメントなり。オススメ。

 あ、「アンジェラ」ってのはお母さんの名前です。察しのいい人は「ああ、こりゃ、お母さん死んじゃうんだな、で、お母さん、こんな小さな骨壺に入っちゃって、とか言うんだろうな」と思うでしょ。ブッブー。お母さんは死にません。お母さんが灰になるのは続編小説での話らしい。タイトルにはまったく意味がないのであった。それでもオススメ!

BABA Original: 2000-Nov-09;

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