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Movie Review 2000・5月22日(MON.)

ロゼッタ

 ダルデンヌ兄弟の作品は、前作の『イゴールの約束』も見ました。厳しいと言うしかないほどの写実に徹底した映像と、これまた徹底的な個人の倫理観を突き詰めたスタイルにやりこめられた覚えがあります。このリアリズムは、昔のロッセリーニとかのネオレアリスモの作家たちの印象とも少し違う。国も違えば時代も違うのだから当たり前かもしれませんが。以下、ストーリーの一切合切語りますので、あらかじめご了承を。

 映画は、ロゼッタと言う、アル中の母とトレーラーハウスで暮らす少女の、仕事探しの闘いの日々がつづられる。そう、まさに闘いなのです。仮採用で勤めていた工場をいきなり解雇されるロゼッタは、行きつけのワッフルスタンドで、何か仕事がないか訪ねる。しかしあっさり断られるロゼッタ。でも、そのスタンドで売り子をしていた青年にワッフル工場で欠員が出たことを後で知らされる。見事に仕事と、そしてその青年という友の二つを同時に得たロゼッタ。しかし、(しかしの連続ですが)経営者は、自分の息子に仕事を与えるため、ロゼッタを解雇する。再び彼女の闘いが始まる。ロゼッタの住むオートキャンプ場へ慰めに来てくれた青年が誤って沼に落ちる。ロゼッタはこのまま彼が沈んで死んでしまえば職が手にはいると一瞬考えてしまう。でも結局助けてしまうロゼッタ。だがその青年のほんのささやかな横領を知ると、経営者に密告してしまう。友情を引き替えに再び職を得るロゼッタ。でも良心の呵責とどうしようもない母親の姿に疲れた彼女は自殺を図る。しかし無惨にもガスボンベは途中で切れてしまい死ぬこともできない。

 大まかなストーリーは以上です。仕事を探すときも、働くときも、母親の介護をするときも、密告するときも、それを責められるときも、ロゼッタは涙を流すことは決して無く、前だけを見つめて突進していく。それは、まさに戦場で戦う兵隊の姿だ。後ろを向いている暇など無いのです。カメラは、ひたすらロゼッタのそんな日常を、毎日をドキュメンタリーの如く追っていく。その手法は、前作『イゴールの約束』と全く変わっていない。見ている僕たちは彼女に同情する暇も与えられない。ただとにかく提示されて行くのみです。

 でも、そんな彼女が、ラストで、自殺に失敗したとき、すなわち、初めて死と言う後ろ向きの姿勢を見せたとき、ロゼッタは泣き崩れる。はじめにも書いた徹底した個人の倫理の闘いみたいなものが凝縮されたシーンのような気がします。見事だと思った。何度も言うが前作『イゴールの約束』と全く同じ手法をとりながら、またしても僕はダルデンヌ兄弟にやられたしまった。不覚。カンヌ・パルムドールは伊達じゃない。

 最後に、印象的だったのが、映画を見に来てた女連れのお兄ちゃんが、見終わった後しきりに女の子に謝っていた。こんな映画とは知らなかったらしい。ほんっとに間抜けな姿だったことを映画とは全く関係ないが敢えて記しておこう。皆さんはこんな映画だと解って出来れば見てもらいたい。いや、解って無くてもいいか。いらんこと言いました。すみません。京都朝日シネマで上映中です。

kawakita Original: 2000-May-22;

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