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Movie Review 2000・5月5日(FRI.)

アメリカン・ビューティ

‘アメリカン・ビューティー’というのは、アメリカ産の真っ赤なバラの品種のことだそうです。その真っ赤なバラが実に効果的に時には暗喩的にまたは象徴として使われているこの映画のストーリーを説明するのは非常に困難であります。

 一応、ケヴィン・スペイシー演じるところの中年男の視点で描かれているようになっているのですが、明確な主人公がいない群像劇になっているわけですね。そしてその各々の登場人物が各自自分なりの理想や悲劇、不満や、まさにタイトル通りの‘美’を抱え込んでいるわけです。そしてケヴィン・スペイシー演ずる中年男が言うところの、普通の生活と言う‘インチキ広告’を掲げて生きているわけです。ところがあるきっかけでそのインチキ広告の化けの皮がはがれて暴走してしまう。観客は一体誰の視点で、誰に感情移入して見ていけばよいのか、ほとほと困ってしまうことになるのです。そこには悪人も善人もいない。

 しかしさすがにアカデミー 5 部門受賞は伊達ではない。監督は演劇畑の人でこれが映画初演出らしいのですが、その辺りの影響か、異常にきっちりした演出でもって全く見るものを飽きさせない。群像劇には欠かせない、シネマスコープの大きな画面を実にこれが初映画とは思えないうまい使い方で、各人物のキャラクターを見事に描ききっております。考えてみれば芝居の舞台というものはそのまんま、シネマスコープサイズなのだな、と納得。そして最後に思い切り毒をはいてくれるところはさすがにイギリス人のなせる技でしょう。

 12 ,3 年前に、イギリス人監督がデニス・ホッパーを起用して撮った『アメリカン・ウエイ』というアメリカン・ニュー・シネマの逆襲みたいな映画がありまして、これが実にイギリス人ならではのアメリカの描き方が爽快で面白かったのを思い出しました。そして本作は既に崩壊して目も当てられぬ‘アメリカン・ドリーム’ならぬ‘アメリカン・ビューティー’というものをやはりイギリス人ならではの一歩下がった冷静な目で描いたものと言えるでしょう。アメリカ人がハリウッドでは決して作れなかった映画ではないでしょうか。

 でも、テレビ・スポットで流れていた THE WHO の『BABA O'RILEY』は結局使われてませんでした。日本では信じられないくらいのマイノリティを誇る THE WHO をテレビ CM にだけ使うというのは何とも大胆で、それだけでも、妙に気に入ってしまった映画でした。

kawakita Original: 2000-May-05;

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