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Movie Review 2000・3月28日(TUE.)

Hole

『青春萬歳』『愛情神話』『河』などの蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督の新作は、近未来 SF ミュージカル・ラブロマンスだ。2000 年まであと七日、この作品が制作されたのは 1998 年、ということでもう追い越しちゃった近未来に、台湾熱――通称「ゴキブリ熱」なる奇病が流行。近未来といえば『ブレードランナー』、という故事にならったのか、単に台湾ってのは雨が多いからか、外には常に雨が降っているマンションの上の部屋と下の部屋をつなぐ小さな穴が開けられる。上には蔡明亮作品おなじみの「小康(シャオカン)」こと、李康生(リー・カンション)、下には『愛情萬歳』にも出てた楊貴媚(ヤン・クイメイ)。小さな穴から二人の交流、といってもロマンチックとはかけはなれた、ゲロを吐いたり、ゴキブリがはい出てきたり、という素敵な交流が始まる。ちなみにこの映画のゲロ吐きは、ホンマもんです。マニア(?)必見。

 で、メチャクチャ唐突に、下の娘の心情がミュージカル仕立てで語られる。ボクにとって最高の映画とは、意表を突いてくれる映画のことだが、この唐突さはスゴイぜ! 「ミュージカル映画」なるものは、道路で突然歌い出しても精神病院に入れられない映画、ということだが(和田誠氏が定義していたと思う)、もともと常態の世界が狂っているこの映画のミュージカルシーンは、不条理感が最高頂に達し、さながら吉田戦車のマンガのよう。恐怖すら感じるキチガイぶり。ミュージカルの限界に挑戦している、というか、すべてのミュージカルを嘲笑している、というか。

「ミュージカル」といえど、蔡明亮タッチは不変。何を考えているかわからない登場人物の、行為をたんたんと撮り続ける。ラブロマンスという題材だが、男が女を気遣う気持ちが生まれる瞬間が素晴らしい。トイレを流す音で女が目を覚まさないよう、洗面台で用をたすんですな。最高!

 パンフレットが良い(あ、「映画を食卓に連れて帰ろう〜ゴマとパイナップルのスムージー」のページを除く。)。ミュージカルシーンには台湾の伝説のスターらしいグレース・チャンの曲が使われているのだが、グレース・チャンとは何者か? とかテキスト充実。蔡明亮+『M/OTHER』の諏訪敦彦の対談も読み応えあり。蔡明亮の言うことには、

「『Hole』を撮り終えてから、やはり映画をつくるというのは自由なんだ、やりたいようにやっていいものなんだと思うようになりました。」

 …とのこと。今後にますます期待、なのである。

BABA Original: 2000-Mar-28;

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