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Movie Review 2000・2月17日(THU.)

雨あがる

 黒澤明の遺作脚本を、弟子の小泉堯史が監督、美術の村木与四郎、音楽の佐藤勝をはじめ「黒澤組」のベテランスタッフが結集して映画化。演出も、きわめて黒澤明風であり、「黒澤明のよくできた贋作」という風情である。

 ストーリーは、なんともシンプルかつこじんまりとしたもので、上映時間も 91 分。メチャクチャ強いんだけど、性格が善良すぎて上手に世渡りできない寺尾聰演じる浪人者が主人公。ひょんなことから仕官の道が開けるかに思えたのだが…という拍子抜けするくらい、のほほーんとした話だ。

 原作をたまたま読んでいるので比べさせていただくと、お殿様のエピソードと、主人公の修業時代の話は黒澤明の創作。主人公がいかにして「剣豪」になったのか? を語りで説明するシーンは黒澤節全開で、じーんと来る。また、寺尾聰のメチャクチャ練習した成果が見られる殺陣が素晴らしいし、チョビッとだけ出てくる原田美枝子もたいそうよろしい。

 しかし少々引っかかりを覚えるのは、寺尾聰のキャラクターだ。メチャクチャ強いんだけど、善良かつお人好し過ぎて出世できない、ってことだが、どうにも偽善的な香りをプンと嗅いだのはボクだけだろうか? 強いけれどもメチャクチャいい人、ってのは黒澤明の理想の人間像だろうが、今回はどうもウソくさい。例えば『赤ひげ』にも強くていいヤツ、とか死ぬほど善良なヤツは山ほど出てくるが、なぜ、そうなのか? がキッチリ描かれているのでドドーンと感動してしまう。今回はその辺の検証が弱いのではなかろうか。

「メチャクチャ強い」ってことは現代資本主義社会にあてはめて考えれば「メチャクチャ金儲けがうまい」ってことだ。「メチャクチャ金持ちで、いいヤツ」ってのはちょっとイヤな感じでしょう?(ボクだけ?) やっぱり「強いヤツ」は「悪いヤツ」でないとダメ。この主人公、勝負に勝っても「ああ、すいません、すいません、ごめんなさい」と謝っちゃうヤツで、それが嫌味に見えるのでどうも気まずくなる、って設定だが、やっぱりどないしたかて嫌味である。闇討ちをかけられて本人が直接手を下したわけではないのだが、人一人殺しても全然悩まないんだぜ。結構、イヤなヤツだ。メチャクチャ強い、けれども少しヌケたところがある、という感じが、この話の場合望ましいのではなかろうか。話が単純な分、主人公のキャラクターがより重要なワケで、こなれてないのが惜しい。

 とはいえ、たまには「オーソドックスな映画」が見たいなあ、って方にはオススメ。「雨あがる」って感じで、心が洗われますな。

BABA Original: 2000-Feb-17;

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