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Movie Review 2000・12月3日(SUN.)

タイタス

 ヒットミュージカル『ライオン・キング』のジュリー・テイモアが映像の世界に大胆な挑戦をしかけた! …っていわれてもよくわかりません。つまり気鋭の舞台演出家がシェークスピアの『タイタス・アンドロニカス』を映画化。これがワクワクするほど見事な底抜け超大作。

 まず、オープニングからしてすごい。現代、と思われるキッチンで少年がおもちゃの兵隊で狂ったように遊んでいると、窓の外で爆発が起こり謎のオヤジが出現、少年は拉致されて連れていかれたのが古代ローマの円形競技場。ゴート族との戦いに勝利したタイタスの凱旋行進を目撃することとなる。のっけからいかにものアートかぶれぶりに呆然。しかし一方、ずん、ずんとローマ兵士が行進するカッコ良さにしびれる。ダサさとカッコ良さが渾然一体、妙です。

 とにかく、ヨーロッパ発アート系映画風の、どこかで見たようなシーンの連続だ。美術監督はパゾリーニや晩年のフェリーニ作品、さらにテリー・ギリアムの『バロン』を手がけたダンテ・フェレッティ。もろパゾリーニ、フェリーニ、ギリアム、さらにピーター・グリーナウェイ、おまけにデレク・ジャーマンっぽい映像の連続で、見事にアメリカ人のヨーロッパに対する憧れ、というかコンプレックスが顕わにされているなあ、とか思いました。ジュリー・テイモアってアメリカ人ですよね?

 大々的にイタリア・ロケを敢行したようで、「製作費が莫大に超過してしまいました感」が漂いまくる逸品。たっぷり 2 時間 42 分。

 古代ローマが舞台、であるが、ナチ風の軍服、オープンカー、拳銃が登場したり。クリエイターのイマジネーション優先で時代考証は適当なのだ。同じシェークスピア原作、1940 年代を舞台にしたイアン・マッケラン主演『リチャード三世』とか、デカプリオ主演の『ロミオ+ジュリエット』と同様の趣向か? シェークスピアを現代において映画化するとなれば「なぜ、今、シェークスピアか?」との問いが発せられよう。アートっぽい美術、現代っぽい時代考証でそのへんをクリアしようという魂胆かしら? よくわかりませんがセンスがないかも?

 セリフや筋立ては原作にきわめて忠実と思われる。舞台ならば、なるほどこれはそういう見立てなんだよな、と納得できるものであるが、映画、しかもなまじ現代的な粉飾が施されているため、思いっきり違和感があり、ところによっては最果てまでの脱力感が味わえる。それがまた気持ちいいんだが。

 お話はというと…。アンソニー・ホプキンス演じるタイタスは、ゴート族の王子を虐殺、その母、ジェシカ・ラング演じるゴート族の女王タモラは復讐を誓う。その後、皇帝が崩御、次期皇帝の座をめぐって皇帝の長男、次男の間で争いが起こる。人気者の勝利の将軍タイタスは、こともあろうに長男アラン・カミングスの後押しをしてしまう。『アイズ・ワイド・シャット』でトム・クルーズに色目を使うホテルマンを演じたアラン・カミングスが皇帝って、どう考えても人選ミスだが、老人力全開のタイタスには分からない。一体タイタスは何を考えているのか全然分からん。

 案の定、即位したアラン・カミングスは暴君ぶりを発揮、年増のジェシカ・ラング=タモラを皇后に迎えちゃってさあ大変。タモラは権力を武器にタイタスに対する復讐を開始、えらいことになりますが、元はといえばすべてタイタス自身の、「人を見る目の無さ」が原因。身から出た錆。ストーリーに「どうでもいい感」がプーンと漂う。

 ところが! クライマックス、とんでもない次元に映画は到達する。タモラはタイタスにトドメを刺そうと策略を練るのだが、その策略が、もう茫然自失、スゴ過ぎ! 脅威の映像体験とはこのことか? さらにタイタスがそれに反撃、これまたビックリ仰天の展開。「なんじゃこりゃあ!」と椅子からズリ落ちることうけあいだ。

 とにかく、珍品中の珍品。それにしても、ムッソリーニ庁舎とかロケ地がいいし、ダンテ・フェレッティによる美術がメチャクチャカッコいいので、これぞホントのオススメだ! あ、無理に見に行かなくてもいいんですけど。

BABA Original: 2000-Dec-03;

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