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Movie Review 2000・8月22日(TUE.)

映画史

公式サイト: http://www.bowjapan.com/

 ゴダールがコツコツ 10 数年がかりで完成させた「映画史」全 4 時間半一挙上映。映画の断片、スティル、記録映像、絵画、新たに撮りおろされた映像、文字などがコラージュのように展開。ゴダールがブツクサつぶやくナレーション、色んな所から引用される音楽、って、要はゴダール的手法を使って「映画史」が語られる。4 時間半、ということで覚悟が必要であるが、1A から 4B までの八編にわかれており、一編あたりは 27 分〜 51 分で、アレ? もう終わり? という印象、かつ、とにかく膨大な情報量がこめられているから、ボケーッと画面を眺めているだけでも退屈しない。かも?

 映画批評家セルジュ・ダネーがゴダールに語る。映画は生誕 100 年である。ちょうど真ん中の時期にあたる 50 〜 60 年代に映画を撮り始めたヌーヴェル・ヴァーグの映画作家こそ、映画史を語るのに最適なのではないだろうか?

 ヌーヴェル・ヴァーグとは、古今東西の映画を上映しまくるシネマテークの最前列に陣取って映画を見まくり、『カイエ・デュ・シネマ』なる映画評論誌でフランス映画を攻撃し、やがて映画を撮りだした一派である。映画好き→批評家→映画監督、という、それまでのスタジオで修行を積んで…とは異なる出自を持つ監督群だ。

 もともと批評的な映画を撮っていたわけで、映画によって「映画史」を語るのにはバッチリというポジションだ。で、内容的にもヌーヴェル・ヴァーグ的主張の総決算といえるもので、色んな角度から語られるべき映画史のひとつ、ヌーヴェル・ヴァーグ的映画史、という趣である。

 眼につくのは、近代絵画からの引用だ。マネこそが近代絵画の創始者とされ、映画は近代絵画の精神を受け継ぐものであり、映画興行の創始者リュミエール兄弟もフランス人。さらに映像を投射する理論はフランス人が考えたのだ、とも語られる。つまり、徹底してフランス万歳! フランス中心「映画史」観。

 一方、ヴィヴァ! イタリアって感じでネオ・リアリスモが賞賛され、アルフレッド・ヒッチコックは「かつて誰もなしえなかった世界征服を映像によってなしえた」、と天まで持ち上げられるが、後期ロッセリーニ、ヒッチコックを「発見・評価」したのはヌーヴェル・ヴァーグであるから、結局自画自賛なんだな。

 今日、映画といえば、アメリカ、台湾・香港・中国、日本、インド、イランって感じで、フランス映画の凋落は眼を覆うばかりだ。現在フランスでは国家が映画を助成し、一定の割合以上のフランス映画を上映しなければならないという制限まで劇場にかけられ、保護されている。レッドデータ・アニマルなみの扱いだ。そういう状況にあって、映画ってのは、とにかくフランスなんだい! イギリスにもドイツにもシネマはない! フランス、フランス! と主張するゴダールは、頑固じじいに他ならない。

 主に前半に登場するゴダール自身がメチャクチャお茶目である。上半身裸で(下半身も?)タイプライターに向かい、葉巻をくゆらせながらブツブツ言ってる危ないオヤジだ。部屋の中でサンバイザーをかぶるんじゃない!

 とにかくフランス中心なのはいかがなものか、とは思うが、山のように過去の作品の断片が引用され、おお、こんな映画全然知らんぞ、とか、お、これはアレじゃないか? など映画オタク的に眺めるだけでも退屈しない。というか、「映画史」というより、映画好きが映画について会話するときの連想に近い(と思う)編集なので、映画好きの方にはとにかくオススメだ。

 引用される映画の多くはヌーヴェル・ヴァーグ以前の作品で、見てないヤツがとにかく多いのだけど、それでもたまに見たことがある映画が登場すると「おお!」って感じでそれなりに嬉しくなってしまうものである。『狩人の夜』、『奇跡の丘』、ゴダール自身の映画など、多くは RCS 、みなみ会館などで見たものであり、今回音響、上映設備最高、ちょっとゴージャス感あふれるシアター 1200 で『映画史』を見る、というのは RCS 体験の総決算、って感じで、妙に感慨深いのであった。RCS 万歳! まだまだ見ていない映画が山のようにある! じゃんじゃん上映してください! と、つくづく思った 4 時間半。

 余談であるが、誰も指摘しないような気がするので書いておく。1B だったと思うがジョン・カサベテスが白目をムいてプルプル痙攣しているカットは、ブライアン・デ・パルマ『フューリー』からの引用であろう。何も、こんな情けないカサベテスを引用しなくても!!

BABA Original: 2000-Aug-22;

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