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Movie Review 2000・4月10日(MON.)

風が吹くまま

 皆さんお待ちかねの(?)キアロスタミの新作です。実をいうと個人的にはキアロスタミと言う監督はあまり好きではなかったんです。『友だちのうちはどこ?』も『そして人生はつづく』も『桜桃の味』もあまり好きではなかったんです。どうしても逆の意味でのあざとさが鼻についてしまうところがありました。映画のためには平気で子供を泣かすやつなんですよ! キアロスタミは。しかし今回の『風が吹くまま』はそれまで、私と同意見だった知り合いも気に入っていて、是非見るようにと勧めてくれたのです。

 映画は、イランの首都テヘランより 700 キロ離れたとある村に、テレビクルーたちがやってくるところから始まります。この村に伝わる一風変わった葬式を取材しようというもののようですが、お目当ての死にそうになっていた老人がなかなか死んでくれない。する事もなくただ一日が過ぎて行く様を淡々と描いていきます。

 のどかな村なんですが、皆何らかの作業をしていて忙しそうです。ここで面白いのは、やるべき仕事が無く、暇なはずのテレビディレクターよりも、一生懸命作業に取り組む村人の方がゆったりしていること。携帯電話(これがまたつながりが悪くてかかってくる度に丘の上まで車を走らせなければいけない)を片手に何もすることが無くいらいらしている都会人とその後ろで、ゆったりと作業している人々の対比が実にうまく描かれています。結局はクルーたちも待ちくたびれて帰ってしまい、ひとり残されたディレクターも帰ろうとした夜明けに当の老人が息を引き取り、映画は幕を閉じます。

 特筆すべきは、この死にそうになっている老人を始め、何人かの映画の鍵を握るべき登場人物の姿が全く描かれていないこと。以前のキアロスタミの映画では逆にあざとさを感じてしまった余白部分。どうにでも解釈して下さい、と言う風に提示しているように見せて実は全てお膳立てができているような感じが今回はまったくありませんでした。いい意味で作品のとげが抜けた感じです。ラストシーンは本当にふるえました。前述したキアロスタミの嫌な部分を自分で解っていて、あえてその部分を露出することができたのではないでしょうか。逆にそれが嫌みをなくしている要因におもわれます。

 劇中に出てくるたぶん詩の一節であろうと思われるセリフ「天国は美しいところだと人はいう。だが私にはブドウ酒の方が美しい。」が個人的に『ハーダー・ゼイ・カム』を思い起こさせ、心に残りました。

 前作『桜桃の味』では中途半端になってしまっていたキアロスタミの生と死に関する思いが、ひとつ結実したような気がします。生命そのものに意味を求めてもしょうがない。生きる、ただそれだけ。そんな感じでしょうか。後から効いてくる、秀作です。みなみ会館で上映中です。

kawakita Original: 2000-Apr-10;

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