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2011年11月12日(Sat)

一命 映画

MOVIXにて「一命」三池崇史監督を観てきましたー。
現在の邦画界で最もアグレッシブ(量も質も種類も)な三池監督による、60年代の傑作時代劇「切腹」(海外では「HARAKIRI」として有名)のリメイク作品。プロデューサー&音楽が、ジェレミー・トーマス&坂本龍一といふ「戦メリ」「ラストエンペラー」アカデミー賞コンビ(あ、中沢敏明もプロデューサーか)。そして主演は市川海老蔵!と、どう考へても本年度邦画界最大の話題作。・・・なんだけれど、客席はガラガラ。公開2週目ですでに大幅に上映回数を削られる、といふ寂しい事態に。トホホ。
日本の観客はダメぢゃのー、と、「アジョシ」が1位になった韓国の事を羨みながら、少しばかり嘆息したのでした。

ちなみにこの映画、昨年の撮影中にスタッフの一人がオパールに来店してくれてですねぇ、その人から三池監督が今「切腹」のリメイク撮ってるんだよーん、と教へて貰って、「ひぇー、そらまた『十三人の刺客』に続いて大胆なー」とビックリしたといふ思ひ出があります。その時、さすがに誰が出てゐるかといふ事は教へて貰へなかったのですが、それが海老蔵だったなんて・・・。しかも、その撮影終了直後に、例のあの事件が起こったなんて・・・。
実はこの映画、あの事件の事を少し彷彿とさせる所があるんですよねー。・・・と、えー、この映画は、話の展開上、ネタばれ厳禁な訳でして、故にこの映画や「切腹」を観てない人は、ここから先は読まない方がいいと思ひます。はい。

・・・では、すでにこの映画や「切腹」を観た人、及びネタばれしても構はないもーん、といふ方々のために、書きます。

要するに、瑛太が無理矢理追ひつめられて、かなり残忍な方法で切腹させられた訳ですが、世間は切腹をさせた井伊家の方を「情に流されず、武士道を見事貫徹した!」と絶賛し、させられた瑛太の方を「自業自得」と嘲笑して笑ひ者にした訳です。その事に対し、海老蔵が抗議する、といふ映画な訳です。これ、例の事件にちょっと似てますよね。
海老蔵は関*連合といふ半分ヤクザな不良集団(殺人事件まで起こしてる連中だからね)とトラブルを起こし、ボコボコにされた訳ですが、世間はまるで海老蔵が一方的に悪かったかの様に非難し、嘲笑した訳です。「自業自得」とか、「自覚が足りない」とか、「日頃の行ひが悪いからだ(生意気だから)」とか。まぁ、世間とはいつだって愚かで品性下劣なもんですが、この映画はそれに対する批判、とみる事もできるでせう。
むろん、この映画の本筋は形骸化した武士道に対する批判でせうが、さういった形骸化して腐臭を放つ“建前”“正論”を支へるのもやっぱ愚劣な世間な訳で、その様にみると、この映画の持つ批評性の射程がグーンと広がると思ふ訳です。さう考へると、映画撮影直後に起こり、公開寸前まで尾を引いたあの事件は、みごとこの映画とリンクする事となり、まさに今、公開時に観る事がある種の深みを齎してしまふ・・・といふ“選ばれた”映画となった訳です。
だ・か・らー、今、観るべきなんだよー!

で、その海老蔵ですが、私はあくまで歌舞伎役者としての海老蔵が好きな訳で、他のところに出てゐる海老蔵はそれほど好きではありません。だから少し危惧してゐたのですが・・・、これがなかなかに良かった。時代劇、といふ事もあるのでせうか。所々、歌舞伎がかった様も見られましたが、やっぱピタッと決まってゐる。瑛太とかも頑張ってゐたのですが、やはり今時の若者がレンタル着物を着てる様にみえる一瞬もあったりするのです。海老蔵はもうバッチリ。
ラストの殺陣も、一瞬だが「アジョシ」を思はせる所もあり(←これ最大の褒め言葉ですよ)、素晴らしかった。

映画そのものは、格調高く、堂々と撮られてゐて、ビックリしました。私個人としては、もう少し俗っぽく、エンタメしてもいいんぢゃないか、とも思ったのですが、これはこれでひとつの見識でせう。
「切腹」にほぼ忠実に撮られながら、細部を少しづつ変へる事で、ガラッと印象や意味合ひが変はってゐるのには唸らされました。特にラストの“あれ”。あれは、「切腹」観てる人はビックリでせう。私もビックリして、「おおー」と思はず声をあげてしまひました(まぁ、劇場がら空きだからいいでせう)。海老蔵、カッコ良過ぎ。あれは・・・たけしの「座頭市」のラストの様な衝撃だったな。

難を言へば音楽が・・・・・・、う〜ん、ま、いいか。そんなこと言ってもしゃーない。余裕で水準超へ、本年度の邦画ではトップレベルの作品になってゐるんだから。
それにしたって、もう少しヒットしてもいいんではないか?と思ったのでした。

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