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2009年04月28日(Tue)

グラン・トリノ 映画

MOVIXにて、「グラン・トリノ」(イーストウッド監督・主演)を観ました。

震へた。震へたね、私は。

イーストウッドが「サノバビッチ!」と吐き捨てる様に言って、ライフルをとりあげた所。あそこで、まづ全身がビビビ!と震へました。
ラスト、イーストウッドが事件を解決する所では、魂が震へました。
そして、エンディング。イーストウッドの嗄れた歌声が流れてきた時は、霊も含めた私の全存在が、激しく、衝撃的なまでに震へました。
この様な映画体験は、本当に久々です。
私は映画終演後、しばし茫然として、席に身を沈めたまましばらく身動きできませんでした。

現在78歳での、主演・監督作。もう本人も主演はやらない(だらう)、と言ってゐる事もありますが、正にイーストウッド映画の集大成感のある映画でした。「イーストウッドが作らなくなったとき、アメリカ映画は終はる」といふ小林信彦氏の言葉を信じるなら、それはアメリカ映画の集大成感のある映画でもありました。故に、映画のラストでイーストウッド演じるウォルトが死んだ時、アメリカ映画の、ある意味それは映画そのものの、“死”が宣告された様な気がして、震へたのだと思ひます。
って、これは些か建前的な感想ではありますが。

私がなによりシビレたのは、イーストウッドは変はらない、といふ事です。イーストウッドは変はらない、が、成長し続ける。これこそ、“無限成長理論”の要諦です。
イーストウッドは、面白いと思ったものをホイホイと作ってしまふ人なので(そしてその全てが素晴らしいのだから、超人といふしかないのですが)、一見するとデタラメ、バラバラに映画を撮ってゐる様にみえます。が、よく観れば、どの映画にも深くイーストウッド印が刻まれてゐるのが分かるはずです。にも関はらず、やはり人はイーストウッドの話題作に接すると、「イーストウッドは変はった」と言ってしまふのですね。むろん、これは表面的な感想に過ぎません。
今作も、「イーストウッドは変はった」と、「たうたう暴力否定の映画を作った」といふ意見が、散見します。しかし、もちろん、これは薄っぺらな見方です。
そもそもイーストウッドは、「暴力否定」とか「肯定」とか、さういったのとは全く違ふ次元で映画を作ってきました。生きる事そのものが暴力である、生きるといふのは暴力の潮流に身を投じる事だ、といふ次元で映画を撮ってきたのです。イーストウッドが、恐ろしく冷徹で醒めた視線を持ってゐる事は、しばしば指摘される所です。徹底して醒めた認識を持ってゐないと、人はリバタリアンになどなれません。

確かにラストシーンは衝撃的です。しかし、それは「暴力否定の思想」だから衝撃的なのではなく、その徹底的に醒めた認識故に、衝撃的なのです。
イーストウッド=ウォルトは、なぜあの様な解決法をとったのか。それは、あらゆる条件を鑑みて、あのやり方が一番有効である、と判断を下したからです。
自分が死病に冒された老人であること、その自分には守らなければならない人が居ること、また範を示し、自分の最良のものを継がすべき人間が居ること、などの条件です。
これらの事を考へると、ウォルトのとったやり方は、正に最も有効でせう。が、人は分かってゐても、まづそんなやり方はできません。そこまで冷徹になる事は、容易ではないからです。だからこそ、衝撃を受けるのです。
私は、あのラストシーンで、イーストウッドのリバタリアン的な哲学、徹底的に冷徹な認識、暴力の潮流に身を任せてきたアクションスターとしての存在、それら全ての総決算を、あの様な形で示された事に、激しく衝撃を受けたのです。う、うちのめされた・・・。

イーストウッドは、徹底して冷徹な認識を持ってゐる、と書きましたが、それ故に、彼の映画は常にをかしい。ユーモアに溢れてゐて、思はず吹き出すシーンが多々あります。今回は、特にそれが多かった。下手なコメディ映画の何倍も笑ひました。間のとり方とかが絶妙なんだよねー、イーストウッドは。

それにしても、こんな凄い映画を観てしまって、次は何を観たらいいんだ!・・・と呻いてゐたら、すでにイーストウッドが次の映画を撮ってゐる、との情報。なーんだ、それを観ればいいやん。
と、いふか、どんだけ凄いねん、イーストウッド!!!

私も精進します。

Comments

投稿者 ヤマネ : 2009年05月12日 18:54

まじで凄い映画でしたね。ここ数年で一番面白かったですが(僕はイーストウッドの映画の出来はかなりばらつきがあると思っています)、
今回はいつも以上の説教ぽさ(悪い意味ではなく)に圧倒されて、心苦しくなってしまいました。「許されざる者」を彷彿とさせておきながら、それとは違う新しく、考え抜かれた答えにも感動。先生、まってよ。という感覚です。

投稿者 オイシン : 2009年05月12日 21:22

ほんと、これが無限成長し続ける人間の姿か!と
無茶苦茶感動しました。

死ぬまで映画を撮って、人間どこまでいけるのか
見せてほしいですね。

投稿者 店主 : 2009年05月12日 22:48

>ヤマネくん

確かに、ここ何年かで一番でしたね。個人的には、「ミスティック・リバー」以来の衝撃かな。
それにしても、イーストウッドの作品をリアルタイムで見続ける事ができる我々は幸せですねー。
よき先達を持てた気持ちです。

>オイシン

その通り!これぞ無限成長する人間の姿だ!ババーン!!!

で、オイシンは?

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