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2007年03月23日(Fri)

ギャング・シティ 映画, 音楽

 ビデオで『ギャングシティ』を観ました。

 これは2PACの遺作となつた映画で、2PACはこの映画の撮影終了1週間後に殺されてしまひました。そんなこんなで、観なければ、と思ひつつ、どうも話題先行の感があつて、映画そのものは面白くないんぢやないか? などと考へて、今まで観ないで来てしまつたのです。ところが、観てみるとこれがまた、なかなか良い作品であつたのです。キラリと光る佳作、とでも申しませうかね。キラリ!

ギャングシティ
ギャングシティ
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 2PACとベルーシの二人は、警察官なのですが、街の売人を騙して金を奪ひ、殺してしまふ、といふ裏家業もやつてをりました。彼らの理屈はかうです。売人どもは社会に害をなすクズである。そのクズを掃除して社会のためにもなり、自分たちも金が儲かる。全てオッケーではないか! 自分たちは社会を良くするために身体を張つてゐるのだから、金を儲けて当然だ、と。ところがある時、手違ひから売人に化けた潜入捜査官を殺してしまひます。この事実を隠蔽するために、他に犯人を捏ち上げたり、なんなりかんなりとやるのですが、それが全て裏目、裏目に出て……。といふお話。

 一見、どうといふ事のないミステリーコメディと思へるでせう。ところが! 私はここに、現在の小泉〜安倍内閣のすすめる“いはゆるネオリベ政策”に対する鋭い批判を読み取つたのであつた!!! ババーン!(ちなみにこの映画は1996年制作です)

 はい。まー、どういふ事かといひますとですね、2PACとベルーシの考へは、つまりは優生思想なのです。社会のクズは取り除いた方が社会のためになる。優者(勝者)の人生の方が、劣者(敗者)の人生より価値がある。…といふ考へ方です。優生思想は、ナチスのホロコーストを生んだが故に、忌み嫌はれ、すでに追放されたかと思はれがちですが、そんな事はない。結構、根強く生き残つてゐます。

 ホームレスやヤクザ、能無し、役立たず、などは社会に害をなす、又は負担をかけるから居ない方がよい、といふ社会コスト論なんかも優生思想ですし、みんなが勝者の人生に憧れ、さうでなければ生きる価値がない、とまで考へたりするのも、優生思想に繋がるものでせう。

 何度もこの日記で言つてゐる様に、私は競争そのものや市場原理を否定するものではありません。むしろ積極的に肯定する。なぜなら、競争する事によつて、人はそれぞれ“より良く”なつていくからです。

 しかし、競争するのはあくまでそれぞれが“より良く”なるため、といふのを忘れると危険です。競争の結果必然的にうまれる勝者と敗者を、そのまま勝者=価値ある者、敗者=価値なき者、とするのは、もうただの優生思想です。勝者も敗者も、それぞれが精一杯闘つたからには、どちらも“より良く”なつてゐるのであり、どちらも価値ある者なのです。

 アメリカは競争社会と言はれてゐます。その事が、世界一の強さを誇ることを可能にしてゐる要因のひとつでせう。が、もしそこに優生思想的なものが結びつけば、そこは地獄となるでせう。これがアメリカの光と闇です。で、現在の日本はこの“闇”の方の導入に血道をあげてゐる様に思へてならないのです。もつと光を! …なんちて。

 それはともかく、この映画は優れた優生思想批判となつてゐます。社会のクズだと思つて殺したのが実は優秀な潜入捜査官だつたり、クズだと思つて罪を被せようとした人間が実は……などといふ展開が喜劇的に繰り返されるのです。その間、2PACは「こんな事は間違つてる、やつてはいけない」といふ良心と、「逃げるな! 少々のミスはあつたが、基本的にオレたちは正しい。最後までやり抜け。さうでないと負け犬の人生だぞ!」といふベルーシの叱咤との間で悩み続けます。そんな2PACに対して、殺人現場の検証の時に、「見ろ! この街では毎日毎日、何人もの人間が死んでゐる。みんな殺人はするんだ。殺人は、最低で最悪ではあるが、それでもひとつの問題解決手段なんだ。どうしようもない時は、その手段をとるのもやむをえないんだ。それが合理的な考へ方だ」とベルーシが諭すシーンなど、妙にリアリティがありました。

 この“合理的な考へ方”といふのがまた、厄介なのです。単純に勝負を考へた場合、合理的な方が強い。だから合理化、合理化、と叫ばれるのですが、もし合理化が人生にまで及んでしまつた場合、そこには愛なき不毛な世界が現れます。しかし負けて敗者の人生を送るのは惨めだ。とはいへ勝つために合理化をあんまり推し進めると愛なき不毛の世界が……。ここから抜け出すには、勝ち/負け、合理/不合理に代はる、なにか新しい基準が必要なのでせう。

 ところで知らない人がゐたらいけないので念のために言つておきますと、2PACは不世出のラッパーです。今や世界でも屈指の激しい競争世界となつたヒップホップビジネスの世界で、数々の奇跡の様な傑作アルバムを残し、ムーブメントを作り、同時に数々のスキャンダルに塗れて、栄光と悲惨を一身に負ひながら25歳で暗殺された、すでに伝説となつた人間なのです。そんな2PACには正にはまり役。悩む姿に、思はず生身の彼を重ねてしまつたり……ッて、あの、これはネタばれになつてしまふのですが、実を言ふと、2PACは殺されてしまふのですね、映画の最後に。これなんかもまた、出来過ぎといふか、何といふか…。

 音楽は今聴くと懐かし〜い、感じ。ウエッサ〜イ、ですね。

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