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2007年03月01日(Thu)

個人的な愛国心 憂国, リバータリアン

 日本のアメリカ化がすすんでゐます。ここでいふ“日本のアメリカ化”とは、とりあへず“小泉政権が強力に推し進め、安倍政権もそれを引き継いでゐる「新自由主義(ネオリベ)」と呼ばれる政策のこと”としておきます。そして、この事態に賛成の者、反対の者、と分かれる訳なんですが、私はもちろん、反対の者です。現在の事態を憂慮してをります。

 ところがここでややこしいのは、私と同じ様にこの事態に反対の人たちの展開する論、なかでもその主流のものに、私は激しく違和感を感じるのです。彼らの主張はかうです。今の日本はなんでも民営化をし、市場原理主義を持ち込んで弱肉強食を正当化して、格差社会をすすめ、強者がますます肥え太り弱者が悲惨な境遇に押しやられてゐる。だから民営化・市場原理主義を止めて、国家による正しい規制・指導を行ふべきである、と。

 しかし私が思ふに、これは国家社会主義ではないでせうか。むろんこれらの人たちにも、硬軟強弱、様々なバリエーションはありますが、大まかに指向してゐる方向は、国家社会主義的なものだと思ふのです。私が賛嘆してやまない小林よしのりでさへ、さうなのです。私は自称リバタリアンで、強固な個人主義者なので、国家社会主義は容認できません。国家社会主義(ナチズム、スターリニズム、共産主義国家郡)は、個人主義を抑圧するからです。

 よしりん(小林よしのり)の言ひたい事は分かります。今の日本人が自分のことしか考へず、公共心・愛国心に欠けることを憂へてゐるのでせう。確かに、公共心・愛国心は大切です。それがなければ、まともな社会は成立しない。が、だからと言つて、公共心・愛国心の強調が、そのまま国家・政府・官僚の強化(国家社会主義)に繋がる訳ではないし、個人主義の弱体化に繋がるものでもないのではないでせうか。むしろ、個人主義の強化こそ、公共心・愛国心の強化に繋がる、と自称リバタリアンの私は考へてゐるのです。

 では、なぜこの様な食ひ違ひが起こるのでせうか。私が思ふに、現状認識が根本的に違ふからです。彼らは、現在の惨状を、民営化・市場原理主義の跋扈のせゐ、と考へてゐます。ところが私の考へでは全く正反対で、現在の惨状は、民営化・市場原理主義がどんどん駆逐されていつてるからである、といふものなのです。

 こんな事を言ふと、何をバカな事を言つてるんだ、と思はれるかもしれません。マスコミは、世の中は民営化・市場原理主義がすすんでゐる、と言ひ続けてゐるからです。しかし、本当にさうなのでせうか?

 例へば、国鉄の民営化、といふ事を例に考へてみませう。みなさん、国鉄が民営化されてJRになつた、と思つてゐますよね? でも、本当にさうなのでせうか。…いやいや、呆れずに、しばし付き合つて下さい。

 国鉄の背負つてゐた巨額の借金。あれは国鉄がJRとなつた時にどうなつたでせうか。JRが民営化による効率的な営業で、みごと返済したのでせうか。いいえ、そんな事はありません。税金を投入してチャラにしました。また、JRは国鉄の持つてゐた全財産、国有地や施設など合はせて莫大なものになりますが、あれをただ同然で譲り受けてゐます。さて、国鉄の持つてゐた財産とは、もともと誰のものだつたのでせうか。国のもの、つまり、我々の国民のものです。税金も同じです。となれば、借金を国家に払つて貰ひ、莫大な財産を国家から貰つたJRが、普通の民間会社と言へるでせうか? 私は、さうは思ひません。私だつて、京都の一等地をことごとく無料で貰ひ、設備や道具やらも全て無料で貰へるなら、オパールを京都で最強のカフェにする自信はありますよ。JRはその上、さうやつて国家のバックアップで強力になつた力を用いて、駅周辺でホテルやショッピング街を経営し、他の民間企業を潰してゐます。かういふのを“民業圧迫”といふのではないのでせうか。

 これのどこが民営化か。こんなものを民営化とは言ひません。市場原理に反してゐます。私は現在起こつてゐる事態もこれに類するものだと思ふのです。そもそもバブルが弾けた後に、大銀行に大量の税金を投入して助けた時点で、市場原理主義など日本から駆逐されたのです。バブルが弾けた後、どれだけの中小企業が潰れ、どれだけの人が自殺した事か。ここまで露骨な差別をしておいて、なにが市場原理主義だ! 民営化だ! こんなもの、国家による強力な統制ぢやないか!!! ……・と、まァ、かういふのが私の現状認識なのですが、どうでせうか。

 むろん、この私の現状認識は間違つてゐるかもしれません。そもそも私ごときに、正しい社会の現状認識など出来るはずがありません。ただ、そんな私に一条の光明を投げかけてくれるのが、日垣隆の著作です。

個人的な愛国心
個人的な愛国心
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日垣 隆
角川書店 (2007/01)
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『個人的な愛国心』日垣隆著(角川ONEテーマ)を読みました。社会時評の集成です。これを読むと、日垣隆の現状認識が、私のものに近いんぢやないかな、と思へるのです。日垣隆は、私なんかよりズッと広く物事をみつめ、深く考へ、大量の本を読み、世界中を飛び回つて、現在の日本で最も恐ろしいジャーナリスト、と呼ばれてゐる人です。そんな人と現状認識が近いのなら、と、些か心強い気持ちとなれるのでした。

 ま、しかし、この本で最も大切なのは、「大状況と処方箋は同じじゃない」といふ視点でせう。さうです。大状況(に対する現状認識)がどうであれ、処方箋は別にあるのです。私ひとりに、大状況を変へる力などありません。それでも、自分の身の回りの事に対する処方箋は別にあり、それによつて身の回りを改善する事はできます。つまり、たとへ(大状況に対する)現状認識が間違つてゐたとしても、正しい処方箋を身の回りに施すことはできる、といふ事です。日垣隆の著書から引用しませう。

「全体が一気によくなれば自分も生きやすくなるのに、と本気で信じてしまった人々が、ソビエト連邦や北朝鮮をつくり、日本では子どもがいじめられたとき「社会が悪い!」(=社会が良くならないかぎりいじめられても仕方がない、という意味になる)と叫ぶ親になってしまうのである」

 有益な達見に満ちた本です。オススメです。

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