京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

Home > 元店主の日記 >

サブメニュー

検索


月別の過去記事


2006年03月26日(Sun)

SPIRIT 映画

 TOHOシネマズ二条にて『SPIRIT』を観る。これはリー・リン・チェイ主演の中国映画。原題は『霍元甲』。霍元甲といへば、清末から民国初めの頃に実在した拳法家で、上海精武門を創立したシナ拳法界の中興の祖である。

 当時のシナでは、拳法は法律で禁じられ、拳法家たちは大道芸人などに身をやつしながらなんとか糊口を凌いでゐる始末、シナの植民地化をすすめる欧米列強から“シナは東洋の病人”と嘲られ、シナ拳法など役にも立たないカス! と軽んじられてゐた。そこに颯爽と現れ、バラバラになつて息絶え絶えのシナ拳法各流派を統合し、欧米列強に対抗してシナ拳法家としての誇りを取り戻したのが、霍元甲なのである。さらに言へば、霍元甲は、その弟子が日本人武術家を破つたことから日本人の怨みを買ひ、日本人に毒殺された、といふ伝説がある。ま、これはあくまで伝説であつて、真偽のほどは定かではないのだけれど、それでもこの伝説がひとり歩きして抗日のシンボルになつた、といふ経緯があるし、なにより『ドラゴン怒りの鉄拳』(原題は『精武門』)によつて、完全にこの伝説は世界中に広まつてしまつたのである。うーむ、リー…。

 で、私は例によつて何も知らずにこの映画を観に行つたのだが、映画が始まつて原題が『霍元甲』と出た瞬間に、ああ! さういふ映画だつたのか! …と、いふ事はもしかして反日映画か! と、少々不吉な想ひに捕らはれたのだけれど、しかし、さすがリー・リン・チェイ、そんな単純な映画にはしてゐなかつたのである。

 ネタばれになるからあまり詳しく書かないけれど、要するに単純に日本人=悪といふ図式で描くのではなく、日本人にもいい奴と悪い奴の2種類ゐる、といふ、まァ、ごく真つ当な描き方がなされてゐるのである。しかも、悪い日本人=西欧列強と結んで利を貪る買弁的帝国主義者、良い日本人=民族の誇りを持つてゐるが故に他の民族も尊重する武士道的人間、といふ図になつてをり、つまりここにあるのは、シナVS日本・欧米列強、ではなく、庶民VS権力者、民族主義VS帝国主義、アジアVS欧米列強、などの図式なのである。これは、この映画が非常にアクチュアルである、といふ事を示してゐる。昔の話、ではなく、昔に仮託された今の話、なのだ。

 映画のワンシーンで、リー・リン・チェイ(霍元甲)と中村獅童が茶について対話をするシーンがある。このシーンは哲学的であり、ブルース・リーの映画を想はせる。さう、明らかに、リー・リン・チェイはブルース・リーを越えようとしてゐる! それが、霍元甲伝説に新たな解釈を加へたこの映画なのである。先人を打ち倒すことこそ、最もよくその先人を継ぐことだ、といふ、格闘者の倫理がここにはある。

 これからのリー・リン・チェイ、一寸目が離せません。

Comments

コメントしてください





※迷惑コメント防止のため、日本語全角の句読点(、。)、ひらがなを加えてください。お手数をおかけします。


※投稿ボタンの二度押しにご注意ください(少し、時間がかかります)。



ページトップ