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2005年11月22日(Tue)

ブラザーズ・グリム 映画

 TOHOシネマズ2条にて「ブラザーズ・グリム」(テリー・ギリアム監督)を観る。「赤ずきんちやん」「ヘンゼルとグレーテル」「白雪姫」などで有名なグリム兄弟を主人公にした作品で、時代は19世紀フランス占領下のドイツ(正確にはまだドイツといふ国はない)、森にはまだまだ魔法や奇蹟が満ちあふれてゐた時代。グリム兄弟は迷信に惑はされた田舎の人々を騙して、インチキな悪霊退治で金儲けをしてゐたのだが、ある時本当の悪霊に出会つて……といつた話。もちろん、完全フィクションである。

 さてさてここで大事なのが、フランス占領下、であるといふ事。フランスは当時の啓蒙的合理精神を代表してをり、魔術や奇蹟などを迷信としてバッサリ切り捨てる。悪霊を信じてゐるドイツ民衆を無知蒙昧の輩と軽蔑し、その迷信の温床である森を焼き払おうとする。これに対して、グリム兄弟たちが迷信の側にたつて対峙する、といふ構図になつてゐる事だ。この事は、フランスの啓蒙的合理精神=世界普遍価値(グローバリズム)VSドイツの昔話=民族固有価値(ナショナリズム)といふ構図に等しい訳だけれど、これは実際の事実にもほぼ等しい構図なのである。

 といふのも、本物のグリム兄弟が活躍した時代も、ドイツといふ国はまだなくて神聖ローマ帝国のなかで様々な諸侯が独立してバラバラにやつてゐたところを、フランスに占領されてしまつた時代。で、やはりバラバラだからダメなんぢやないか? “ドイツ”といふ統一国家を作つてフランス占領軍を追い出さう! といふ「ナショナリズム」が昂揚した時代でもあつたからである。このナショナリズムに呼応して、フンボルトはベルリン大学を創設し、フィヒテは「ドイツ国民に告ぐ」を書き、グリム兄弟はドイツの古い話を集めてゲルマン精神を探つた、といふ訳である。

 だからこの映画の隠されたメッセージのひとつが、現在世界を吹き荒れてゐるグローバリズム(今はアメリカが体現)に対抗し、民族固有価値(ナショナリズム)を大切にしよう! といふのは間違ひない、とは思ふのだけれど、それを何故、イギリス人のテリー・ギリアムがグリム兄弟を使つて撮つてゐるのか、といふのが分からない。単にグリム童話が好きだつた、といふ事だらうか。さらに言ふなら、この映画は全編基本的に英語なのだけれど、これも謎だ。フランス人も、ドイツ人も、英語を喋つてゐる。民族固有価値を擁護するやうな映画で、なぜ民族固有価値の最たるものである言語が(現在の)グローバリズム語なのか。しかも、映画の中でフランス人とドイツ人が、お互ひの言葉を貶しあふ場面まであるのである。同じ言葉を使つて。これは変ではないか? 確かに、フランス人はフランス風の間延びした英語を喋り、ドイツ人はドイツ風の滑舌のいい英語を喋つてはゐるが…。は! もしかして、これッて、英語ネイティブが聞けば、無茶苦茶をかしいのだらうか。私が聞いても、フランス風の間延びした英語はをかしいくらゐだし。つまりはこれは、テリー・ギリアム流の冗談なのか? ああ! 私が英語ネイティブであれば! ……といふ気持ちにさせるといふ事は、やはり貴様はグローバリズムの手先なのか、テリー・ギリアム! …なんだか、よく分かりません。

 この映画で私が注目したのは次の三つ。まづは泥の怪物。こいつ最高! 次は拷問場に現れる猫。陰惨な場所に可愛い過ぎる! そしてモニカ・ベルッチ。絶世の美女である年老いた魔女、といふのをここまで完璧に演じたのを私は知りません。私にとつて、魔女とは正にこんな感じです。モニカ・ベルッチ最高!

 次は是非、モニカ・ベルッチが村人たちに激烈な復讐をする映画を撮つてほしいです。

公式サイト
http://www.b-grimm.com/

Comments

投稿者 BABA : 2005年11月26日 13:00

こんにちは!
『ブラザーズ・グリム』における、グローバリズムとナショナリズムの対決が鮮やかに整理されていて、深く感銘を受けました。

> イギリス人のテリー・ギリアムがグリム兄弟を使つて撮つてゐるのか

実は、テリー・ギリアムはミネアポリス出身のアメリカ人(後にイギリスの市民権を取得)でして、というのはともかく、今回はもともとグリム兄弟をネタにした脚本があって、テリー・ギリアムはプロジェクトに後から関わったそうです。元の脚本は大幅に改変されたそうですけれども。

http://www.cine-pause.com/interview/grimm.htm
<貼り付け始め>
テリー・ギリアム(以下TG)——参加した理由はというと、まず、製作側にとても勢いがあったんだ。僕は前作から自分の作品を何度か映画化しようと努力していたんだけど、なかなか上手くいかなくてね。そういった状況の中でこの作品は既に脚本が存在し、すぐにでも製作側の“ゴーサイン”が出る状態だったから、やろうと思ったんだ。最初の脚本は全然好きじゃなくてね(笑)。ホラー・アドベンチャーだったのをお伽噺寄りにして、80%ぐらい書き直したんだ。
<貼り付け終わり>

投稿者 店主 : 2005年11月26日 15:54

なるほど!さすがに映画は一筋縄ではいかない、といふ感じですね。私はついつい作家主義、といふか監督の名の下に映画を語りがちですが、その陥穽を突かれた思ひです。・・・とはいへ、やはりこれ、凄くテリー・ギリアムくさい作品ですよね。作家の刻印が色濃くある作品の方が、私の好みです。

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