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 Diary 2004・3月19日(FRI.)

少年探偵団

 江戸川乱歩の少年探偵団シリーズ『青銅の魔人』『虎の牙』を読了。私は幼い頃、子供向けの読み物としては怪盗ルパンシリーズ、名探偵シャーロック・ホームズシリーズ、は読み耽つたのだけれど、少年探偵団シリーズは読まなかつた。理由はひとつ、それは表紙の絵が怖かつたから。が、長じて子供向けでない乱歩の本を読むやうになつてからは、そのあまりの面白さにビックリし、子供の時に少年探偵団シリーズを読まなかつた事を後悔したものである。とはいへ、わざわざ少年探偵団シリーズを買ひ求めて今更読むのもなんだし、と、もう少年探偵団シリーズとは一生無縁かと思つてゐたのだが、近頃ユキエさんが少年探偵団シリーズにはまつてゐることから、借りて読むことになつた。 30 歳半ばにして少年探偵団シリーズと邂逅するとは、感無量である。

 考へてみれば、大学生の時、乱歩の諸作に耽溺してゐた時に、一冊だけ少年探偵団シリーズを読んでゐる。『怪人二十面相』がそれで、しかしその時は、やはり少年向けは幼稚だな、と思つただけで、大して面白くなかつたといふ記憶がある。が、今回、2 編の少年探偵団シリーズを読んでみると、凄く面白い! もちろん、筋やトリックなどは、単純といふよりほとんど子供騙しなのだが、それ以外の細部、及び全体の雰囲気がイイのだ。私もこの歳になつて、やつと小説の読み方が分かつてきた、といふ感じがする。まづその差別性といふか、階層性が興味深い。『青銅の魔人』に於いて、小林少年は浮浪少年たちを集めて「チンピラ別働隊」といふのを作るのだが、その理由が凄い。少年探偵団のみんなには夜の危険な仕事をやらせる訳にはいかないから、といふのだ! 少年探偵団は、良家の坊ッちやんたちによつて構成されてゐるのである。さらに小林少年は浮浪少年たちに向かつて、君たちみたいなのを少年探偵団に入れることは出来ない、他の団員が怒るからね、と言ひ放つのだ。うーむ、凄い。さらにさらに、青銅の魔人によつて捕まつてゐた小林少年たちを助け出したチンピラ別働隊は、魔人を油断させるために自分たちが代はりに人質に化けるのだが、事件の大詰めで、明智探偵に追ひつめられた魔人は、定石通り人質を持ち出す。人質の命が惜しくば、そこをどけ、といふ訳だ。そこで明智探偵は大笑ひし、よくその人質を見てみろ! と叫ぶ。魔人が慌てて人質をあらためると、小林少年たちではなく、汚い浮浪少年たちである。そこで明智側は勝ち誇り、魔人は悔しがるのだが…浮浪少年でも人質には変はらないと思ふんですけど。別に、浮浪少年ならいくら死んでも構はないのか?

 まァ、このやうな細部だけではなく、全体に流れる牧歌的といふか、少年の冒険心や正義・廉恥の心を鼓舞するやうな文体は、さすが乱歩、と感嘆・堪能できる。 30 を過ぎてからの少年探偵団シリーズもなかなか乙なもの、といふことで。

小川顕太郎 Original: 2004-Mar-21;
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