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 Diary 2004・4月10日(SAT.)

モロッコ

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 マレーネ・デートリッヒ主演の『モロッコ(1930 年)といふ映画で、デートリッヒが大金持ちとの婚約発表をするまさにその当日に、自分を捨てるやうな形で戦地へ行つてしまつた恋する人が街に帰つてくるといふ噂を聞き、動揺を隠しながらも婚約発表の席に着く、といふシーンがある。そこで、ある紳士がお祝ひの演説を始めるのだが、途中で口をポカンと開けたまま話を止めてしまう。その場にゐた人々も、半ば放心・半ば緊張したやうな形で動きを止め、デートリッヒは目を大きく見開いて何度も窓の外に目をやる。やがて、夜のしじまの中から微かな軍楽隊の音が聞こえてきて、問題の軍隊が街に帰つて来たことが分かるのだ。似たやうな事が、オパールであつた。

 ハッシーは、常に喋り続けなければならないといふ強迫観念を持つてゐるかのやうに絶え間なく喋り続ける男なのだが、今日もいつものごとく、他を圧してベラベラと喋つてゐる最中に、フッと喋るのを止めた。たまにかういふ事はあるのだが、さういふ時は大抵頭の中がオーバーヒート状態になつてゐる時で、耳のあたりから煙が出てゐるのでそれと分かる。が、今日は様子が違つた。半ば放心・半ば緊張したやうな態で、目は半眼になつてゐる。我々は訝しげに、それでも釣られるやうな形でハッシーの顔を見つめながら沈黙してゐたのだが、やがて夜のしじまを破つて、虫の羽音のやうなものが聞こえてきた。「これは、**です」と、ハッシーが口を開いた。「車も混じつてゐるな…、車は**かな? で、この音は…」と、ハッシーの急流のやうな説明が始まつた。暴走族が走つてきたのであつた。

「来週は東京に行つて、定番の靖国で写真を撮つてきます。」とハッシー。靖国神社で写真を撮るのが、暴走族の定番らしい。現役時代に果たせなかつた夢を、30 を前にして果たしに行くのだ。うむ、しつかり行つてきて下さい。英霊の方々にくれぐれも失礼のないやうに。

 ところで何故『モロッコ』なのかと言ふと、すつかり(?)ビリー・ワイルダーのファンになつたタカハシくんが、先日『情夫』を観たやうなのだが、そこに出てゐるマレーネ・デートリッヒの美しさがいまひとつよく分からなかつたやうなので、『情夫』ではデートリッヒも 50 歳過ぎだし、若いときの作品を観ればいいんぢやないか、と思ひ、貸してあげたのだ。ビデオを貸すと、題名を見てタカハシくんは「あ! 知つてます」と言ふので、一瞬ビックリしたのだが、「これ、芥川龍之介ですね!」と続けたので、やはり、と脱力した。それは、『トロッコ』や。

 さういへば、いま、みなみ会館でデートリッヒのドキュメンタリー映画がやつてゐますね。

小川顕太郎 Original: 2004-Apr-12;
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