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 Diary 2003・5月27日(TUE.)

8 Mile

 京極東宝にて『8 Mile』(カーティス・ハンソン監督/エミネム主演)を観る。現在世界一売れてゐる白人ラッパーのエミネム初主演作。かなり、自伝的要素濃し、との前情報。この映画は、今年私が最も待望してゐた映画のひとつである。(他に待ち望んでゐるものとしては、『キル・ビル』『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』『英雄』『マトリックス リローデッド/レボリューション』…と、結構あるなあ…)さて、このやうに待ち望んでゐた映画を遂に観た。で、これから観る人のために、ネタバレは避けなければならない。となれば、一体何を書けばよいのだらう?

 まづ、面白かつたのか? もちろん。面白くない訳がない。では、その面白さは期待をはるかに上回るものだつたのか? と、きかれれば、いや、まあ、期待通り…ってとこですか、と答へるだらう。

 別にケチをつけるやうな事ではないのだが、個人的な思ひ入れから、敢へて不満を述べれば、この映画は生真面目すぎる。非常に手堅い映画で、よく出来てゐるのだが、そこがちよつと面白味に欠ける。ヒップホップムービーといふよりは、ヒップホップを題材にした映画、といふ感じだ。とはいへ、パンフレットの監督インタビューを読めば、監督自身ヒップホップムービーを撮るつもりはなかつたやうなので、私の非難は的はずれなのだらう。あくまで、個人的な勝手な思ひ入れから言へば、生真面目すぎて物足りなかつた、といふ事だ。

 しかし、誤解されては困るのだが、当然、私はこの映画をとても楽しんだ。機会があれば、もう一度観に行きたいと思つてゐるぐらゐだ。なんといつても、MC バトルのシーンが最高。これだけでも、十分観る価値がある。バトルこそヒップホップの真髄、とはよく言はれる事だが、さういふ点から云ふと、この映画はヒップホップの真髄をある意味捉へた作品と云ふことが出来るかもしれない(ちと強引か?)。このバトルのシーンで示されるエミネムのラップのスキルは圧倒的である。正直言つて、私はエミネムのラップはあまり好きではないのだが、それでも「上手い!」と思はせるものがある。エミネムが、現代最高のラッパー(の一人)といはれ、黒人ミュージシャンたちにも認められてゐるのもむべなるかな、といつた感じだ。ただ、普段あまりラップを聴かない人たちには、このエミネムの圧倒的なスキルが分かりにくいかもしれない。字幕では、エミネムのライムの凄さはほとんど伝はつてゐないから。が、もしよければ、エミネムのラップにじっくりと耳を傾けてほしい。絶妙に韻を踏みまくつたライムが、たとへ言葉の意味は分からなくとも(意味は字幕で補へばよい)、心地よく音楽的感性を刺激するのが分かるだらう。それが、ラップである。といふか、詩とは、もともとさういふものなのだが。

 この映画のストーリーは単純極まりない。もし 20 年前なら、エミネムはロック少年として描かれてゐただらう。が、エミネムはラッパーである。この事実は、今や完全にロックは死に絶へてゐる、といふ事を示してゐる(ああ! 何度この事実を書けばよいのか!)。未だにこの事実が分つてゐない人は、この映画を観て反省してほしい…て、いふか、これロック映画だね。エミネムといふ白人を主人公に、白人の監督が撮つたのだから、当たり前かもしれないが、黒さがちつともない。それで、なんとなーく、ブラックムービー的なものを期待してゐた私は拍子抜けしてしまつたのだらう。この映画は、アメリカの下層階級の若者たちを描いた青春映画、として楽しむのが正しい、のかもしれない。とにかく、オススメ。

小川顕太郎 Original:2003-May-29;

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