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 Diary 2003・6月20日(THU.)

裏切り

 テラダさん来店。「蛋白石茶楼」と刻した印をくれる。テラダさんは、仕事の合間に空白の時間が出来たので、ちよいと彫つてみた、と言つてゐたが、なんのなんの、将来は篆刻界で大物になることが約束されてゐる(?)テラダさんの印である。私は大いに感激して、ワインを一本テラダさんに奢つた…と、いふ話には少し嘘が混じつてゐて、実はこのワインは私の父の奢りなのであつた。

 カウンターには、私の父、テラダさん、ハシモトくん、マツヤマさん、アヤさん、バンちやん、と並んでをり、その後にも、カズ 16、ババさん、ベッチ、ヤマダくん、タカハシくん、と詰めかけ、その前にはヤマネくん、と、常連客で賑はふ週末らしい金曜日であつた。この中から、最近人気が赤丸急上昇中のハシモトくんについて、述べやう。

 実を言ふとハシモトくんは、本日オイシンに、一緒にオパールで会はないか、と誘はれてゐたらしいのだが、非常にしんどかつた事から、その誘ひを断つた。が、その後に、マツヤマさんから、一緒に立ち飲み屋で飲まないか、と誘はれ、前回会つた時に自分から「こんど立ち飲み屋に誘つて下さい」と言つた手前、これは断れないと、気力を振り絞つて出掛け、立ち飲み屋でしたたか飲み、帰りにオパールに寄つたのであつた。この逸話から、ハシモトくんが、非常に優れた美質を持つ人間であることが判明する。自分から「誘つて下さい」と言つた以上、どれほどしんどくてもその誘ひは断らない、といふのが、その美質のひとつ。そしてもうひとつは、期せずしてオイシンを裏切つた形になつたことだ。

「裏切り」は、真実を露呈させる。特に、オイシンといふ、オパールにとつての不可解点を裏切ることによつて、ハシモトくんは今夜、オパールの真実を露呈させた。故に、今夜のオパールは愉悦に溢れてゐた。思はずこのやうな事態を招いてしまうのは、やはりハシモトくんの美質と言へるだらう。さすが、赤丸急上昇中の男である。

 ババさん曰く「山田風太郎の『魔界転生』読みましたが、バチグンに面白かつたです」。さうですか! それは良かつたです。山田風太郎の小説は頓知がききまくつてゐますからね、ババさんは好きなんぢやないかなー、とは思つてゐたのです。そこでフッと思ひ出したのが、ババさんの映画レビュー『WATARIDORI』。これは、昔の映画人は、美しい・アッと驚くやうな・もの凄い映像を撮るために、頭を絞りに絞つて、頓知をきかせまくつてゐたのに、CG 技術が導入されてからは、何でも CG に頼り、頓知がなくなつてしまい、映画の面白さが減らされてしまつた、といふ趣旨のものであつた。確かに、さうかもしれませんねー。もしかしたら、サイレントからトーキーになつた時以来、映画の魅力は減り続けてゐるのかもしれません。技術の進歩は、頓知の退歩を伴ふのであらうか?

 もつと頓知を。もつと裏切りを。

小川顕太郎 Original:2003-Jun-22;

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