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 Diary 2003・6月8日(SAT.)

好物の食べ方

 食事の時に自分の好物をいつ食べるか、といふのは、よく話題にされることだ。私は、好物は最後の方に回す(一番最後ではない)タイプなのだが、トモコは違つて、比較的早めに食べてしまう。二人で一緒に暮らしていくうえで、このやうな性向を知つておくことは、重要である。何故なら、二人だと、どうしても大皿ひとつに二人ぶんのおかずを入れて、そこから各自とつて食べる、といふ形になりがちだから、このやうな性向を知つておかないと、食事のたびに揉めることになるからだ。

 今日も、トモコが刺身の盛り合はせを買つてきたのだが、この盛り合はせは、半端ものの刺身を適当に集めて作られたものであり、そのぶん安いのだが、いかんせん、内容に偏りがある。今日のは、私の大好物であるサーモンの刺身が一切れしか入つてゐなかつた。このやうな時にどうするか。私は、よく盛り合はせを観察してみた。トモコの大好物である、マグロが大半を占めてゐる。そして、サーモンに次いで私の好きなハマチが、二切れほど入つてゐる。ちなみに、トモコはサーモンがあまり好きではない。と、なれば、一番数の多いマグロ、あるいは 2 番目に好きなハマチから食べるのが常道だらう。出来ればハマチも後に回したいのだが、確かハマチはトモコも好きだつたはづだ。あまり放置しておくのは危険である。多分、トモコはマグロからいくと思ふのだが…、私は短時間で猛烈に脳味噌を働かし、結局大事をとつてハマチに箸をのばした。すると、トモコがヒョイッとサーモンを箸でつまんで、口に入れたのだ! な、なにー! サーモンは私の大好物ぢやないかー!! 忘れたのかー!

「あら、覚ゑてゐるわよ。私はあんまり好きぢやない」

 ぢ、ぢ、ぢやあ、何でサーモンを食べるんだー!

「だつて、私は他人の好物から食べるのが好きなんだもの。忘れたの?」

 ガーン。し、知らなかつた。

 結婚して 10 年以上も経つのに、まだこんな事を知らなかつたなんて…。結婚生活は奥が深い。

小川顕太郎 Original:2003-Jun-9;