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 Diary 2003・1月6日 その 2(MON.)

上海日記 1日目
中編

市中散策苦の道行きSASHAS

市内散策

 眠くて倒れさうだつたのだけれど、気力を振り絞り、タクシーに乗つて街へ。ちなみに、グランドハイアット上海は浦東地区といふ所にあり、いはゆる上海の中心区とは黄浦江を挟んでゐるので、橋を渡るか、地下道を通つて行かなければならない。我々はとりあへず、ワイハイジョンルー(ワイ海中路)といふ通りに降り立つた。ここら辺りは、旧フランス租界であり、現在はお洒落な若者達が集まる地区だといふ。

 実際に街に立つた印象は、発展途上の都会、と言つたものだ。確かに高層のもの凄いビルがガンガン建つてはゐるのだが、その足下を見ると、まだまだ薄汚れた暗い建物が多い。欧米のブランドショップやスターバックス、マクドナルド、ケンタッキーなども多いが、どれもよく見れば、微妙に鄙びてゐる。ナイキの店に入つたのだが、なんとなく暗い、荒んだ印象。が、値段はあまり日本と変らない。本によると、中国の人々の平均月収は 1 万 5 千円くらゐといふ事なので、それを考えると、とても高い。貧富の差が激しいのだらう。

 歩いてゐる人々も、普通の日本人とあまり変わらない格好をしてゐる。シナ語を喋つてゐなければ、日本人と区別がつかない。とにかく声が大きいので、すぐ分かるのだが。とはい、お洒落な人の比率はやはり低い。中には、とてもお洒落な人もゐるが、多くは、せいぜいオイシンレベルのお洒落だ。後は、普通の格好の人々で、これらの人々は日本人と変らない。このやうな感じだが、トモコが 17 年前に来た時は、人民服だらけだつたさうだから、激変したと言へるだらう。

 街角には、『スパイ・キッズ 2』『ハリー・ポッター 2』のポスターが貼つてある。

苦の道行き

 なぜ我々がこの地区にやつて来たのかと言ふと、それはトモコがチャイナ服を欲しがつたからだ。この地区に、チャイナ服の店が集中してゐるのだ(さうだ)。しかし、なかなか見つからない。ウロウロしてゐたのだが、とにかく激烈に寒い。寒すぎると言へる。寝不足で疲れ切つた身体には堪へる。おまけに、まだ 18 時前だといふのに、日が落ちてきた。大通りはともかく、一歩横道に入ると、外灯の数が少なく、非常に薄暗い。気分も落ち込む。道を尋ねやうにも、言葉が通じない。何か訳のわからない事を話しかけてくる人達がゐる。何を言つてゐるのか。さらにお腹が減つてきた。街角にはおいしさうな飲茶の店がいたる所にあり、そこに行かうと思ふのだが、どうにも行けない。何故か。それはトモコの格好に問題があるのだ。

 トモコはジャージの上下にスニーカー、毛糸の帽子、その上から、ごつい毛皮のロングコートで全身をつつんでゐる、要するにヒップホップファッションなのだが、これが注目の的なのだ。金持ちに見へるのか、珍しいのか、とにかく向うの人達の見方は、ジッと凝視するといふやり方だ。遠慮とか、失礼とかいふ感覚がないのだらう。店に近づいて行くと、みながこちらを見る。それもジッと凝視する。恐い。とてもぢやないが、今のやうに弱り切つた身体と精神状態で、こんな状態に耐へながら飲茶を食べることは出来ない。そこで、そこを離れる。寒い、眠い、お腹も減つた、気分は暗い、疲れで眩暈がする、地獄の苦しみだ。嗚呼、うすれば良いのか。>> 上海寫眞帳 11

SASHAS

 気が付けば、「SASHAS」と言ふ店の前に来てゐた。ここは、知つてゐる。事前に情報誌で調べ、来やうと考へてゐた所だ。さる情報誌には「ひれ伏したくなるような上海カフェの実力!」と言ふ見出しのもと、大袈裟な美辞麗句が並べ立ててあつた。いちおう我々もカフェを生業とする者、上海カフェの実力は知つておかなければ、ならない。1 階がカフェで、2 階がレストランとなつてゐるやうなので、疲れと空腹で倒れさうになつてゐた我々は、勢い込んでそこに入つた。

 さて、我々は上海に来る前に、上海に関する情報誌や本などを 10 冊ほど買ひ込んで、情報収集に努めた。とは言へ、それらを読む時間がなく、結局そのまま上海までそれらを持つて来て、こちらで読むはめになつたのだが、それが初日の敗因とも言へるだらう。それはともかく、さういつた紙媒体だけでなく、インターネットも使つて情報を集めたのだが、その中で、確か上海の日本領事館のサイトだつたと思ふのだけれど、日本で発売されてゐる情報誌に書いてあることには間違いが多いので信用しないやうに、といつた内容の事が書いてあつた。私とて、日本の情報誌がいかにいい加減な作りをしてゐるか、といふ事は知つてゐるつもりだし、この領事館のサイトだつて、そりや日本の情報誌よりはましかもしれないが、どこまで信用してよいのか分かつたもんぢやない、と、軽く流してゐた。が、この店に来て、改めて日本の情報誌のいい加減さに呆れ、怒りさ沸いてきたのであつた。

 ま、ここはカフェではない。お茶とお菓子を出せばそれでカフェ、と言ふ強弁が出来るかもしれないが、私はそのやうな詭弁は認めない。どうみたつてここはパブだ。それもかなりダサいパブ。店員の態度もなつてゐないし、なによりオーナーらしき太つた白人の、横柄な(店員に対する)態度が、醜い。さらに、ダサダサのアメリカンロックが BGM として流れてゐるのも耐難い。2 階に行く。ここは、1 階よりはましとは言ふものの、大したことはない。日本であれば、この程度の店はいくらでもある。これらは価値観の違い、といふ問題ではない。ほとんど詐欺のやうなものだと思ふ。実はこのやうな感想は、上海滞在の 4 日間の間、ずつと持ち続けることとなる。とにかく、情報の正確さや多様性を犠牲にして、読者の幻想を煽ることのみに汲々とする情報誌は、情報誌の名に値しない、とだけ怒りにまかせて言つておかう。

小川顕太郎 Original: 2003;