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 Diary 2003・2月18日(TUE.)

殺人者たち

 ビデオで『殺人者たち』ドン・シーゲル監督(64 年)を観る。これはヘミングウェイの『殺し屋(The Killers)』が原作の映画であり、46 年にシオドマークによつて映画化されてゐるので、2 度目の映画化作品といふことになる。ヘミングウェイの『殺し屋』は、二人の殺し屋同士の会話だけで異様な緊迫感を盛り上げる、傑作短編である。私も、ヘミングウェイの短編の中では最も好きなもののひとつだ。だから、前からこの映画は観たいと思つてゐた。が、なにせ短編なので、どのやうに映画化するのだらうか? といささか疑問に思つてもゐた。『殺し屋』は、そのほとんどが殺し屋同士の会話に終始するが、最後に、殺される人間も出てくる。彼は殺し屋が迫つてゐるのに、逃げやうともしないのだ。そして、なぜ彼が殺されるのか、小説では謎のままとなつてゐる。と、いふことは、もしやこの謎の部分を映画で描くのでは…? しかし、それは安易でもあるし、危ない冒険ではないか…? と、危惧してゐたのだが、やはり! さうだつたのだ!! ガーン!

 小説に於いては、この謎が効いてゐる。だから、下手に謎の部分を描くと、陳腐になる可能性がある。で、確かに、この謎の解明は陳腐だつたのだ。ま、かういふ所ですか…と言つた感じだ。その点では、全く私は失望した。したのだが、考へてみれば、ヘミングウェイの原作に基づいてゐるとはいへ、これは全く違ふ作品である。ヘミングウェイの『殺し屋』と思はなければ、これはこれで、凄く面白い作品なのだ。ドン・シーゲル調の簡潔でスタイリッシュな演出はメチャカッコイイし、殺し屋のリー・マーヴィンの傍若無人なドスの効かせ方には痺れてしまう。確かに、この殺気は、ヘミングウェイの『殺し屋』に通じるものだ。冒頭の盲人ホームを襲撃する所など、さすがドン・シーゲル! とニヤリとしてしまつた。

 共演者も、カサベテスにアンジー・ディッキンソン、ロナルド・レーガン元大統領と、なかなか良い。露骨な合成による特撮も笑へる。ううん、考へれば考へるほど、いい映画だ。

 今日はいい映画を観ました。

小川顕太郎 Original: 2003;