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 Diary 2003・8月20日(WED.)

時間がない

 タカハシくん来店。タカハシくんは弟さんと一緒に住んでゐるのだが、この弟さんはまだ専門学校生。で、ただいま夏休みの真最中であり、毎日家でゴロゴロとテレビを見て過ごしてゐるのだといふ。それに対してタカハシくんが、なんでそんなテレビばつかり見てゐるのか、と尋ねれば、「暇だから」との答へ。「暇だから、暇を潰すためにテレビを見てゐる」と。この答へを聞いたタカハシくんは、「勿体ない!!」と思はず逆上してしまつたのださうだ。

 オパールに通ふやうになつて急激に目の前に世界の広がつたタカハシくんの今の最大の悩みは、時間がない、といふこと。あれも知りたい、これもやりたい、あの本も読んでみたいし、この映画も観てみたいし、その音楽も聴いてみたい、どこそこにも行つてみたいし…と、いつた感ぢで、とにかく時間が欲しいのだ。現在のタカハシくんは毎日朝から晩まで、一日 12 時間以上働いてゐるし、休みは週に一日だけなので、確かに時間がない。同じ年齢の、たとへば大学に通つてゐる連中に較べれば、ダントツに時間がないのは確実だ。そこでタカハシくんは、もつと昔に勉強してをけば良かつた、とか、やはり大学に行けば良かつた、と悶々としながら日々を送つてゐる訳なのだが、そこにこの弟さんの答へだ。タカハシくんが逆上してしまうのもむべなるかな、であらう。

 でもね、タカハシくん、たとへタカハシくんが大学に行つてゐたとしても、世界の広大さに気づかなければ、今の弟さんと同じやうな体たらくになつてゐたはずだよ。それに、タカハシくんと同年齢で大学に通つてゐる連中の大半も、実は似たやうな体たらくだ。暇潰しに汲々として日々を過ごしてゐる。そんなのに較べれば、今のタカハシくんはまだずつといいよ。少ない時間で、焦りながらも、それゆへ、必死になつて世界と対峙してゐる。さういふのが、ホントに身になつたりするんだ。我々とて実は同じで、時間がないなあ、と些か焦りながら毎日を過ごしてゐる。そんな状態で、すでに何年も過ごしてゐる。で、あまりそれが高じると、所詮我々の生は死ぬまでの暇潰しぢやないのか、と一種の諦観に達したりする訳だけれど、それはまあまた別の話、といふことで。

 ところでタカハシくんは、弟さんに対して「そんな事をしてゐるんだつたら本でも読め!」と指導し、本を与へたのだといふ。ううむ、まだ本を読み始めて一月目のタカハシくんでした。

小川顕太郎 Original:2003-Aug-22;