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 Diary 2003・4月21日(SUN.)

風船をぢさん

 風船をぢさんの娘がデビューした、といふニュースが話題だ。って、いふか、私が話題にしてゐるだけなんだけど。

 最初このニュースを聞いた時、私は「風船をぢさん」とは、風船を膨らませ・捻つて動物の形などにする人のことかと思つた。まさか今から 11 年前に、本当に風船で空の彼方に消えていつた人がゐたとは…。当時は話題になつたやうで、みんなテレビでその様子を見てゐたりする。テレビでその様子を中継したとは…。みんなから聞いた話を総合してみる。

 まづ、風船をぢさんは最初、勝手に飛行を試み、人家かどこかに落下して、警察に捕まつた。このことにより、風船をぢさんはマスコミの注目を浴びることになる。で、風船をぢさんは警察から厳重注意を受けたにも関はらず、再度挑戦すると公言し、マスコミもそれを煽り出し、世間の話題の人となつた。警察も、乗り物が飛んでいかないやうに縄で地面に繋いだ状態ならよい、と、しぶしぶ許可を出さざるを得ないやうになり、次のフライトはテレビ中継の形で、全国のお茶の間に流れるやうにお膳立てがなされたのだ。そしてフライト当日、皆が見守るなか、空に高々と昇つた風船をぢさんは、十分高く昇つた所で自ら縄を断ち切り、そのまま空の彼方に消えていつたといふ。最後の目撃例は、セスナ機に乗つた人が、雲の上にそれらしきものを見た、といふものらしい。以後をぢさんは行方不明である。

 ババさんが言ふには、ビートたけしなんかが、よくギャグにしてゐたらしい。が、もちろん私は知らない。たとへそのギャグを見ても、よく理解できてゐなかつたのだらう。

 ワダくんは、『ルパン 3 世』で、闘ひに破れた悪役が気球に突き刺さつたまま空へと舞ひ上がり、飛行機に乗つたルパンと目が合つて、恨めしさうな顔で空の彼方に消えていつた話を思ひ出した、と言ふ。実は、私もさう。あのシーンは印象的だつた。

 ヤマネくんは、「いやー、この日本でも、あれだけマスコミに注視されてゐる人が消えてしまへるなんて、素晴らしい! と、開放感を感じたのを覚えてゐます」と言ふ。なるほど。さういへば、年間の行方不明者数って、どれぐらゐなのだらうか。国民総背番号制の話はどうなつたのだらうか。

 ついでに、ちよつと狡いのだが、アガくんが明日来店して聞かせてくれる話も書いておかう。アガくんによると、風船をぢさんは、風船で吊つた籠、つまり自分の乗り物の中に、大量の一升瓶を詰めてゐたさうだ。その瓶に詰まつた大量の酒を飲みながら、いい気分でをぢさんは、空に消えていつたのだといふ。

「ボクはねえ、思はず、橋川文三『日本浪蔓派批判序説』の中にあつた話を思ひだしましたよ。それは、日露戦争中のことなんですが、日本軍に撃沈されたロシアの戦艦の乗組員たちが、もうダメと分かると、ウォッカを皆でがぶ飲みしながら、大騒ぎで沈んでいつた、といふ話です。ボクは、風船をぢさんをテレビで見ながら、この話が頭に浮かんでしかたがなかつたですよ…」

 みんな、風船をぢさんには、なんらかの思ひがあるやうだ。私も、テレビを見ておけばよかつた。

小川顕太郎 Original:2003-Apr-23;