ユキエさん頑張る
ユキエさんはオパールという新しい環境で働くようになったため、新たに覚えなくてはならないことが沢山出てきた訳だが、なかでもお酒に関することが大変そうだ。もともとお酒には弱く、それ故知識もないわけだから、今までは梅酒ぐらいしか知らないし、飲んだこともない、というユキエさんなのだ。カクテルを注文されても、そもそも聞き取ることができない。注文をとりにいっても、不安な顔つきでお客さんのもとから戻ってきて、「ハイネケンひとつと、えーと、確か『ぴ？』、ええと『だ？』？？？」といった具合。だからまず主要なカクテル名を教えることにした。
最初にスピリッツ、リキュール、ベルモットなどの違い、カクテルは基本的にどうやって作られるのか、など大枠を教え、次に具体的なカクテルを実際作って示し、飲んでもらう。味と結びつけて覚えるのが一番だと思うからだが、もちろん、少量しか作らない。酔っぱらっては仕事にならないので。
最初の日は、女の子の人気カクテルで、オパールでも注文が多い「シャーリーテンプル」。おそるおそる口をつけるユキエさん。どうですか？ 「お、おいしいです！！」と目を輝かす。そしてたちまち飲み干してしまった。ま、ユキエさんは甘いもの好きだからね。
次の日は「スプモーニ。これはどちらかと言うと苦いカクテルなので、ユキエさんにはどうかな？ と思ったのだが、案の定顔をしかめて「苦いです」。まあ、カクテルにはいろいろあるから、こういうのも覚えておかないと…と説明していてフッと見ると、飲み干している！ 「これ、癖になりますね」とユキエさんは言う。
ユキエさんは以前に一度だけジンを嘗めたことがあるそうなのだが、そのときに「こんな不味いものがあるのか！」と思ったそうだ。そうか、私はスピリッツ類の中ではジンが一番好きなんですけどね。確かにジンはきつく、癖もあるから、そのままで味わって吃驚したんだろうけど、カクテルにすると飲みやすくなるよ。例えばオーソドックスにトニックで割ってジントニック。どう？ 「お、おいしいです！！」…ユキエさんって、もしかしてお酒好き？
しかし、とはいってもなかなか名前を覚えるのは大変のようで、毎日家で復習してきているにも関わらず、名前が思い出せない。ユキエさん、カンパリを使ったピンク色のカクテルの名前は？ 「ええええと、うーん、モスコミュール！」。それ、まだ教えてないやん。
とにかく、このようにしてユキエさんは日々頑張っているのでした。
小川顕太郎 Original:2002-May-7;