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 Diary 2002・3月10日(SUN.)

殺す・集める・読む

殺す・集める・読む』高山宏著(創元ライブラリ文庫)を読む。これは高山宏初の文庫本で、これまで様々な著書に収めてきた推理小説に関する文章を集め、大幅に加筆し、一冊の本として纏めたもの。副題は「推理小説特殊講義(MURDER TO READ)」。私はここに収めてある文章のほとんどを読んでいたが、新たな相の下、楽しく読めた。

 高山宏は、推理小説というジャンルを、近代という時代を体現し、その解体を予告するものであった、という。近代という時代は、本来多様である世界の一元化を進めた時代であった。その矛盾が極点に達しつつあった 19 世紀末、推理小説は生まれる。名探偵達は、バラバラで不条理に見える事件を解釈(解決)し、真相をみつけだす。これが一元化だ。やり方は近代科学者達と同じ。事実(証拠)を集め、観察し、真実(真相)を発見する。こうやって世界は単純な原理の貫徹する、安定した分かりやすいものとなる。

 しかしこういったやり方は、まさに推理小説が隆盛を極めていた 20 世紀初頭に、疑問に付されることとなった。アインシュタインの相対性理論、ハイゼンベルグの量子論、ボーアの相補性原理、ゲーデルの閉システムとしての数学批判、などなどなど。これらを受けて、推理小説は一気にアンチミステリにまで突き抜ける。これが推理小説というジャンルの興亡史だ、と高山宏は言う。

 この大筋に、マニエリスム論や、表象論、暗号、童謡殺人、経済学、などを絡めて、華麗なる高山節のアルス・コンビナトリアが炸裂する。大いに酔いました。

小川顕太郎 Original:2002-Mar-12;