京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

HOME > diary > 01 > 0306
 Diary 2001・3月6日(TUE.)

オイシンの発表

 オイシンが課題図書(三島由紀夫『午後の曳航』)を読んできたので、みなの前で発表を行ってもらった。発表といっても大した事をする訳ではない。どのような話であったかを、オイシンなりにまとめて説明してもらうのだ。まあ、よく学校の国語の試験などである、100 字以内にまとめよ、というのと同じである。これは抽象能力を問う問題だ。

 そもそも今回の訓練は、オイシンは自分の観た映画の筋などを他人に説明することが出来ない、という衝撃的な事実が発覚し、我々一同が愕然とした、ということに端を発する。我々がオパール道場でやっていたことは全て無駄だった。まず抽象能力がなければ、なにかについて自分の意見を述べる、などという事が出来る訳がない。ましてや評論など! それでは発表の様子を述べよう。

「えーと、ですねえ。まず主人公のお母さんとその恋人が部屋でいちゃついているんですよ、それを主人公が覗き見して、お母さんは未亡人だから別にいいんですけど、おお! こりゃ凄い!! と思う訳なんですよ。で、お母さんの恋人は船乗りなんですけど、主人公に船乗りの生活を話して、死と隣り合わせになっているんで、主人公は憧れるんですよ。それで……」

 ババさんはカウンターの上で悶絶、ショウヘイくんは憮然とした表情で佇み、トモコは険しい顔でコーヒーをいれている。そして私はひっくり返って泣いてしまった。あんまりおかしくて。

 その後、10 分ほどしてオイシンの発表は終わったが、「オイシン!! このまえ教えたことが何にも身になってへんやん!!」とショウヘイくんは叫び、そのままカウンター内から出ていってしまった。ショウヘイくんは『午後の曳航』を読んでいないので、わけのわからない、まとまりを欠いたダラダラ話に、10 分も付きあわされて、キレてしまったのだろう。

 確かに、印象に残ったシーンを順番につないでいっているだけで、ちっとも要約・抽象化されていない。しかし、いったいこれをどのように指導すればよいのだろうか。

 とりあえず、面白かったのかどうかを尋ねる。

「ええと、面白かったです。かなり…」

 ふうむ、で、どういう所が。

「ううん、ええとそれは…」

 真っ赤な顔をして考えるオイシン。考えるオイシン。きばるオイシン。そのうち頭から湯気がでてきた。ショートしてきたようだ。

「オイシン、もういちど読み直すか」と言って、ババさんは帰っていった。

 虚脱するオイシン。多分、久しぶりに頭をつかったからだろう、痴呆のように惚けている。やれやれ、予想された事とはいえ、前途多難です。次は…『家族八景』だ!

小川顕太郎 Original:2001-Mar-8;