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 Diary 2000・1月1日(SAT.)

明けましておめでとうございます

前日からの続き)
 しまったああ! カウントダウンをやろうかと思ったらすでに 30 秒ほど 0 時をまわっていたあ! 乾杯のお酒を持ったままざわめくお客さん達。一体この始末をどうつけるつもりなのかと冷たい視線を送り続けるオパールのスタッフ達。

 私は思わず叫んでいた。「みんな! あわてるな! 時間の流れは均質ではない!!」そうなのだ。叫んでから考えついた理屈とはいえ、「均質な時間の流れ」という概念は近代の生み出したものではないか。二つの世界大戦やファシズムを生み、強制収容所や民族大虐殺、不可逆的な地球の破壊や大衆社会をもたらしたこの近代という時代。均質な時間と空間が支配する、効率的ではあるが貧困な「近代」に別れを告げ、豊饒なるポストモダンの世界へ! オパールにはオパールの時間が流れているのだ。さあ、みんな気にせずカウントダウンだ!! 「3 、2 、1 、イエーイ! 明けましておめでとうございまーす!」

 いやあ、あせったあせった。もう新年早々たまりまへんな。さて、本当はこのままキタアキくんによる怒涛のノーザンソウルタイムへと突入するはずだったのだが、あまりお客さんもおらず、いまひとつ盛り上がりに欠けるところから、私がつなぎでレコードをまわすことにした。こんな状態でキタアキくんに DJ をさせるのは申し訳ない。で、やりました。

 うううん。しかし、私の素人 DJ ではせいぜい 3 人踊らせて 5 人帰らす、といった所が関の山で、なにがなんだかいいのやら悪いのやら分からないままにキタアキくんに引き継ぐことになった。すまん、キタアキくん。が、そんな私の心配は杞憂に終わったのである。

 キタアキくんがレコードを回しはじめると、場の雰囲気がパッと変わった。さすがだ。こんな事なら最初からやってもらえばよかった。しかし考えようによっては、私のたるい DJ の後だからこそよけいに違いが目立ったともいえるので、よしとするか。

 それにしても素晴らしい夜だった。どれぐらい素晴らしかったかというと、私的にはこのあいだの「ノーザンヴォイス!!」第 3 回に匹敵するぐらい素晴らしかった。まず人数が少ないのがよかった。というとふざけているみたいだが、そうではなく、十分に踊るスペースがあってたっぷり踊れて良かったという意味だ。それから何より、踊っている人達が、私とトモコとマイちゃんを除けば、ほぼみんなノーザンソウルとは何かという事さえよく分かっていない人達だった、という点が良かったのだ。

 ノーザンソウルとは、音楽的に言えば究極のコレクターアイテムのひとつであり、またダンスの面から言っても進化に深化を重ねたような複雑さと激しさを兼ね備えている。だからノーザンソウルファンが結集する「ノーザンヴォイス!!」のようなイベントは、ある種の戦場である。それはそれで緊張感があって楽しいのだが、今回のオパールノーザンナイトはそれとは正反対のパーティーだった。みんななんだかよく分からないけど、この幸福感溢れる音楽はなに? って感じで体を動かし、また狂ったように回転し続けるベッチをみて自分もそっとクルリとまわってみたりして、そこには音楽に合わせて踊るという事の最も原初的な歓びに溢れていた。

 夜が更けるに従ってお客さんの数はさらに減り続けたのだけれど、それとともに濃度はますます上がり続けるといったかんじ。その場にいた全員が真から楽しそうに踊り続ける。ううん。私は幸せだ。普通のカウントダウンイベントといえば、大勢の人達がぎゅうぎゅうと寄り集まって、お酒なんかもはいってわけの分からないうちにその場の雰囲気に呑まれ、ホントはその場でもみくちゃにされてただけなんだけれど、なんだかしらんけど盛り上がった、という錯誤の観念を持ち帰るものだが、私はそういうのは嫌いだ。だから深夜の初詣とかも大嫌い。浅田彰じゃないけれど、未開人どもめ、と思ってしまう。そういった場の雰囲気に呑み込まれるのではなく、真に能動的に楽しむことができないのだろうか。オパールではそれをやりました。これで 2000 年は違ってくる、と思う。キタアキくん&マイちゃんありがとう。そしてあの時にオパールにいた全ての人に幸あれ。

 パーティー終了後、みんなで八坂さんに初詣に行く。やはり初詣は元旦の早朝でしょう。人もあまりいないし、何より気分が清々しい。私は昔から神社仏閣が割と好きで、色々と訪ねたりしていたのだけれども、お賽銭をあげて願い事をするという行為がどうにも白々しくて、あまりやらなかった。建物とか雰囲気とかが好きだったのだ。しかしオパールを経営するようになってからは、スッとお参りできるようになった。もちろん商売繁盛を祈願するのだが、こういうのもなかなかいいもんだ。特にあのような素晴らしい夜がオパールで持てたあとではね。

 喫茶店で一息ついてから解散。みなさまお疲れさまでした。我々も疲れまくっていて、家に帰って服も着替えずにそのままベッドに倒れ込む。目覚めたらもう夜。やばい。今日中にトモコの実家に年始の挨拶に行って、そのあと私の実家に泊まりにいかなければならないのだ。慌てて用意をして出かける。

 トモコの実家に着いたのは夜の 10 時半。テーブルの上には朝から用意してあったとおぼしき箸やお盆がのっている。義父などは拗ねて寝てしまっていた。あちゃあ〜。ほんまにすんません。京懐石「美濃吉」のおせち料理を御馳走になる。で、あわただしくそこを辞して、私の実家へ。

「遅かったねえ、おせちでも食べるかい?」もういらんっちゅうねん。家で十分寝てきたはずなのに、すぐまた深い眠りに落ちていった。

小川顕太郎 Original:2000-Jan-2;